傀儡の恋
12
天空から一陣の青い光が舞い降りてきた。
それが一機のMSだと認識できたのは、それが動きを止めてから少し経ってからのことだ。
『ザフトおよび地球軍の警告します』
次の瞬間、周囲に響いたのは誰の声か。記憶の中にある小鳥がさえずるようなかわいらしい声ではない。だが、自分はこの声の主が誰なのかわかったような気がする。
「……生きていてくれたのか……」
どのような方法でかは知らない。だが、彼は間違いなくあの災禍をくぐり抜けたのだ。
「アスランは悔しがるだろうね」
彼が再び戦場に立ったという事実を、だ。
それとも喜ぶのか。
自分はアスランではないからわからない。
だが、自分は間違いなく喜んでいる、とラウは判断する。
「これでどちらに転ぶかわからなくなったね」
自分の望みが叶うか、それとも彼が阻止するかが、だ。
それはそれで楽しい。
「やはり、最後まで私とかかわるのは君になるのだね」
キラにとってそれは不幸だろう。だが、自分にとってはとても幸せなことだ。
「こんな私にも、世界はほんの少しだけ優しさを見せてくれた、と言うことか」
言葉とともに機体の向きを変える。
「全速力で範囲外まで避難しろ! ここで無駄に命を散らしても意味はない」
スピーカーをオンにするとラウはそう怒鳴った。
今ここで戦力を無駄にしては今後の計画に支障が出る。そう判断したのだ。
指揮官である自分が指示を出したからか。周囲のMSは次々と離脱していく。
「さて……君はこれからどうするのかな?」
一瞬だけ視線を空から下りて来た機体へと向けるとラウはこう呟いた。
「行動次第では、世界は君の敵になるよ?」
大人達は、と言うべきか。
それでも彼は自分の信じた道を行くのだろう。そう言うところは似ているのかもしれない。
「私を憎むといい」
そうすれば甘えは消えるだろう。
だが、それでもあの日々のような甘さが残るなら、それはそれで好ましいと言える。
「楽しみにしているよ、キラ」
そう言うとラウもまたその場を後にした。
キラは、その後、アークエンジェルと合流したらしい。
おそらくこのままオーブへ向かうだろう。いや、それ以外の選択肢はないはずだ。
あるいは、ヴィアのもう一人の子供と合流するのかもしれない。あちらの子はナチュラルだったから、どこの家に引き取られていても目立たないはずだ。
それに、オーブでは優秀な子供を養子にとって後に継がせると言うことは普通のことだとも聞いている。あるいはカリダ達を援助していたのはもう一人を引き取った人物なのかもしれない。
「……そのあたりも調べられるものなら調べたいが……状況が悪いね」
おそらく地球軍も動いているはずだ。
ひょっとしたら、あれこれと難癖をつけて侵攻を開始するかもしれない。
いや、その可能性が高い、と見るべきだろう。
その時、彼らはどのような選択肢を取るのだろうか。
「出来れば死なないで欲しいね」
自分と決着をつけるためにも、とラウは呟く。
「さて……ギルの方はどうなっているのかな」
彼もそれなりに動いている。そちらの手はずはどうなっているのか。
「こちらの都合だけで動くわけにはいかないからね」
オーブの滅亡。あるいは地球連合への参加が大きな転機になるはずだ。
いや、そうあって欲しいと思う。
自分に残された時間は残り少ない。せめて終演の幕だけはこの手で下ろさなければ心残りなどというものではないから。
「……世界はどちらの道を選ぶのかな」
そう呟きながらも、メールを書くために端末を引き寄せた。